初夏の和菓子に舌鼓
端午の節句にはまだ間があるのに、花見の頃には「柏餅」があちこちの和菓子店の店頭をにぎわせる。
柏餅は、江戸時代以降、端午の節句が「菖蒲=尚武(武をとうとぶの意)の節句」として幕府の重要な行事となり、次第に民間にも普及する中で発明されたと聞く。柏の木は新しい葉が育つまで古い葉が落ちないことから、家系が途絶えないという縁起かつぎで盛んに食べられるようになったが、それは関東中心の話。関西には柏の葉がなかったこともあり、中国伝来の「ちまき」が長く端午の節句の供物として用いられ続けたそうである。
2009年4月のある日、JR新橋駅近く、烏森通りにある「文銭堂本舗」(ぶんせんどう)をのぞいてみると、あった、あった。
こし餡は白生地、つぶ餡はよもぎ生地、特に味噌餡のやさしいクリーム色の生地が食欲をそそる。個人的に、味噌餡の柏餅が好きなのだ。昔は小豆餡は葉の表側で、味噌餡は葉の裏側で包んでいたそうだが、葉の色の違いはその名残なのだろう。
この文銭堂、新橋ではよく知られた店の1つで、戦後間もない昭和21年(1946)創業。看板商品は通貨の形をした「文銭最中」だが、日本初の鉄道の起点となった新橋にちなみ、車輪をかたどった最中「汽笛一声」、福沢諭吉の肖像が印刷された本の形の箱入りの最中「学問のすゝめ」(慶応義塾大学東門そばにある「三田店」の人気商品)などのアイデア商品もある。
品揃えは実に多彩。試食品も数多く用意され、店に入ると店員さんがお茶を淹れてくれて、試食をすすめる。季節柄、梅餡のどら焼きが美味。ひときわ目を楽しませてくれるのは上生菓子で、季節の変化に合わせて品揃えが変わる。年間で250種類ほどあるとか。今日は見るだけと思っても、お茶の効果もあって、つい購入してしまうのが困ったものである。
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