縁起でもない人気者
新橋4丁目、赤レンガ通りを少し入った所に「切腹最中」のノボリが目を引く和菓子屋がある。大正元年(1912)創業の新正堂(しんしょうどう)だ。
実はこのあたり、江戸時代に奥州一関藩田村右京大夫の屋敷があった。元禄14年(1701)3月14日、江戸城松の廊下で刃傷事件を起こした浅野内匠頭が一時預かりとなり、即日切腹をした「忠臣蔵」ゆかりの屋敷である。新正堂はもともと屋敷跡の一角にあり、現在行われている環状2号線(別名マッカーサー道路)の工事で移転を余儀なくされたいきさつがある。したがって、忠臣蔵に関連した商品を作ろうと考えるのはうなずける。
だからといって、ふつう「切腹」はないだろう。縁起でもない。もちろん周囲は大反対だったそうだ。だが、3代目社長の渡辺仁久さんは1990年、意を決して発売する。すると「切腹最中」は話題を呼び評判となって、瞬く間に新橋いや東京を代表する土産品の1つとして知られるようになったのである。最中を切腹させ、餡をはみ出すように詰めて白い鉢巻(?)を結んだアイデアは実にユニーク。だが単にアイデアだけではない。コクのあるしっとりした粒餡と、中に包んだ餅(求肥)、それにパリッとした皮の食感が調和して実においしいのだ。
店内のショーケースには、忠臣蔵関連商品のほかにも、小判をかたどった「景気上昇最中」、愛宕神社を題材にした「出世の石段」など営業用の手土産に受けそうな商品が並ぶ。「岡埜栄泉」に負けない商品をめざしたという創業当初からの看板商品「豆大福」も健在だ。繁忙時でなければ、渡辺社長の熱のこもった忠臣蔵話も聞ける、楽しい店である。
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