Wケーキセットで
ひと休み
会社から3、4分、日比谷通りと外堀通りが交わる西新橋交差点近くに「キムラヤ」という洋菓子店がある。ちょっと地味なうえに都営地下鉄内幸町駅の出口がすぐ前にあり、人の往来が激しくみな先を急ぐためか、全く店に気づかずに通り過ぎてしまう人も多い。
中に入ると、20数席のカフェコーナーが広がっている。今ではあまり見られなくなったクラシックなつくりで落ち着ける。
「キムラヤ」という店名は、銀座の木村屋総本店からの暖簾分けであることに由来する。明治33年(1900)創業、現店主は4代目だそうだ。木村屋総本店は戦後、木村屋と称するパン屋が乱立したことを受け、正当な暖簾分けであることを示す証書を発行したそうで、それが店内に飾られている。
ランチタイムは付近に勤める女性客でいつも満席だ。この時間帯のお目当ては、1000円で楽しめるドリンク付きのサンドイッチセットやサラダセット(クロワッサンなどの自家製パンがつく)。3時頃に行くならケーキセットがおすすめだ。自家製ケーキとドリンクで650円。さらに200円を足して850円ならケーキが2つだ。リーズナブルである。
写真は定番の苺ショートと、季節商品の紫芋のモンブラン(ともに380円)。ショートには苺の隣にラズベリーが乗っているのが可愛い。紫芋のほうには、てっぺんに「田村町木村屋 明治33年」のラベルが輝いていた。昔このあたりは忠臣蔵とゆかりのある一ノ関藩田村屋敷があったことに由来する「田村町」という町で、今なお、この名に愛着を持つ人は多いのである。そんな歴史を思い浮かべながら2つもケーキをいただくと、コーヒーがもう1杯飲みたくなる。おかわりOKである。
こうした店はチェーン店とは違い、商品に個性があって、何となく「作品」といった印象である。ショーケースに彩り豊かに並ぶ「作品」たちは、十二分に目を楽しませてくれる。いずれ時代の波の中で建て替えや再開発の話が出てくるだろうが、少しでも長く頑張ってほしい店の1つである。
CONTENTS