大手町の森の驚き
2017年2月某日、都心のビル街に育つ「森」を見てきた。地下鉄丸の内線、東西線、半蔵門線、千代田線、都営三田線の五路線の大手町駅ホームに囲まれたエリアに建つ、大手町タワー(2014年竣工)の緑地のことである。「大手町の森」と呼ばれるこの緑の空間は、東西線と丸の内線間の地下乗換通路からも、その存在の一部を望むことができる。
近年の大規模ビルの開発では、自由に通行できる緑地を敷地内に設けるのが当たり前のようになっている。環境関連の条例の影響もあるが、最近は緑化の取り組みが、働く人や観光客を呼ぶ、つまりはビジネスにもつながると考える事業者が増えているせいか、一段と力が入っているようにみえる。そうした中でも、大手町の森は、これまでの動きとは一線を画すものではないだろうか。
というのも、整然とデザインされた緑化エリアとは異なり、背の高い木もあれば低い木もある、常緑樹もあれば落葉樹もある、下草もあれば枯枝も落ちている。多様性のある植物が、大きな高低差のある敷地に、自然にある姿で生育しているのだ。だが、昔からあった自然の森を残したものではない。あくまでも新しく「人工的に作った」自然の森である。大手町という土地が本来持っていた植生や土壌の特質を考え、千葉県の山林で計画の3分の1の大きさで3年をかけて育成した森を移植して作り上げたという。日比谷公園の森や明治神宮の森は国家的プロジェクトのような形で作られたものだが、今は民間のプロジェクトでもここまでするのかと驚かされる。
そこでふと思うのが、今日でも私たちを楽しませてくれている江戸の大名庭園である。大手町の森の中に佇むレストランは、大名庭園でいえば離れの茶室のような存在であろうか(写真中)。もちろん、大名庭園が一般には閉ざされた空間だったのに対し、ビルの緑地は一般の利用を前提に作られているところが大きく違うが、有力大名がプライドをかけて屋敷の庭園の美を競ったように、有力な事業者がビルの緑地の魅力を競い合う時代になったとすれば、まさに現代の大名庭園といえるかもしれないと思うのだ。さて今後、どのくらいの名園が誕生し後世に残っていくのだろうか。
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