銀座ミツバチ物語
毎年5月上旬から、松屋銀座地下1階の各店で、「銀座ミツバチプロジェクト」による銀座産ハチミツを使用したスイーツが販売される。写真右はそのひとつ、文明堂カステラで、上品な味であった。ハチミツに限りがあるので、7月上旬にもなると販売を終了しているものが多い。
プロジェクトの代表・田中淳夫氏が、単行本『銀座ハチミツ物語』を上梓した(写真左/時事通信社 本体1400円+税)。銀座紙パルプ会館の役員である同氏が、養蜂と出会い、それがプロジェクトとして広がっていった経緯を、味わいのある文章でまとめている。ミツバチに関する知識も分かりやすく記されている。
これまで銀座のいろいろな店舗が、スイーツやドリンク、さらにソープやローソクなどを開発し、さらにミツバチのためにビルの屋上を緑化する「銀座グリーンプロジェクト」が進められた。そして2008年には、ハチミツの利益を使い「ファーム・エイド」というイベントが開かれ、地方の名産を集めた青空市場、地方の農の現実を知るフォーラムなどが行なわれた。今年2009年も7月18日に開催される。これらの動きが目指すものは、「銀座の緑化」を超えた「銀座で農業」とのことで、今後は各地方の自然保護NPOなどとも連携を結ぶ。
「ハチの視点で銀座を見てしまう」という著者は、紙パルプ会館の屋上にいるハチたちがこうした新しい動きを実現させてくれたと謙遜して書かれているが、著者の、文章から十分に伝わってくる型にとらわれない発想力や、人を集める魅力の賜物であろう。
銀座のハチミツたちは、樹木の受粉を促し実を生らせ鳥を呼ぶなど、銀座の生態系を再構築したが、著者のプロジェクトもまた、人が集まり互いの技術や知恵を出し合って新しいものを作り出してくという、街が本来持っていた「生態系」を再構築したのだと感じる。
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