こんな所に新設の銭湯
地下鉄日比谷線小伝馬町駅を下車、大通りから少し入ると急に落ち着いた街並みになり、十思(じっし)公園という公園がある。江戸時代は伝馬町牢屋敷があった場所で、幕末の長州の思想家、吉田松陰が処刑された地としても知られ、園内にその終焉の地を記す石碑が建てられている(写真上右)。
この公園が整備されたのは関東大震災後のこと。被災した都内の多くの小学校が防災上の観点から公園を隣接して再建されたが、ここもそうした復興小学校の1つ。旧十思小学校は平成2年(1990)に廃校になったものの、昭和3年(1928)竣工の建物はメンテナンスも良く、「十思スクエア」の名で福祉関連の施設として活用されている。交差点角にアールをつけて設けた正面玄関のデザイン、アーチ形の窓などが素敵で、築80余年の年月を感じさせない(写真中左)。
だが今回気になったのは、小学校と公園の間にある新しい建物のほう。2014年、老朽化した体育館を取り壊した跡地に「十思スクエア別館」として建設されたもので、低層階にはアーチ形の窓が使われ、旧小学校のデザインとの調和が配慮されている(写真中右)。ユニークなのは、2階に「十思湯」という銭湯があることだ(写真下右)。銭湯はもともと人口が急速に集中した大都市型の施設。全国の中でも東京都は大阪府とともに群を抜いて多く、2015年現在、640軒余りが営業している。しかし、最盛期の3000軒からするとすさまじい減少ぶりである。その中にあって、この「十思湯」は実に珍しい新設の銭湯なのである。物は試しと入ってみると、ホテルの大浴場という感じ。のびのびと快適に入浴ができるが、いわゆる「銭湯」の雰囲気を味わいたい方にはちょっと不満かもしれない。しかし、都内にもまだまだ懐かしい佇まいが残る施設もあるし、逆におしゃれなデザインにリニューアルして、一汗かいた都心ランナーなどに人気の施設もあるらしい。東京都公衆浴場業生活衛生同業組合では、「江戸湯屋めぐり」「東京銭湯お遍路巡礼」といったスタンプラリーも企画しているので、WEBサイト「東京銭湯」(1010で検索!)なども参考に、あちこち探訪してみるのも面白そうだ。
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