白金の歴史的建築物の再生
港区白金に、停まっていた時間が動き出したような一画がある。2018年11月1日、もう10数年も眠っていた歴史ある建物が大規模な保存改修工事を終え、港区の新しい施設としてオープンした。そこは地下鉄南北線白金台駅のそば、旧国立公衆衛生院の施設で、公衆衛生の専門家の育成・訓練を担う機関として、旧国立伝染病研究所、現在の東京大学医科学研究所・附属病院と同じ敷地内に、昭和13年(1938)に竣工した。したがって、元は国の施設なのだが、虎ノ門の旧鞆絵小学校跡地など(大規模プロジェクト進行中)を国に提供する代わりに港区が取得したらしい。
新しい施設は「ゆかしの杜」と名付けられ、港区郷土歴史館が三田から移転してきたほか、子育て支援施設や、がんの在宅医療支援施設などで構成されている。郷土歴史館の展示コーナーは入場料300円が必要だが(企画展示は別料金)、建物自体は地下1階から6階までのかなりの部分を自由に歩くことができる。大きな鳥が翼を広げたような左右対称の形、垂直ラインが強調されたデザインは、同時期に建設された隣接の医科学研究所・附属病院と双子の兄弟のように似ているのが興味深い。設計は東京大学の第14代総長も務めた内田祥三で、東大本郷キャンパスの安田講堂をはじめとする主要な建物も手掛けており、デザインの共通性は素人目にも見てわかる。「権威ある施設はこうじゃないといかん!」とでも言いたげな、こだわりが結構すごい。歴史的建築物を安全に活用するために全体としてだいぶきれいに手が入り、補強の部材なども目につくが、中央階段、旧講堂など、かつての部材や装飾、内装デザインなどをほぼそのまま残している見どころも多い。館内探訪に疲れた後は、旧食堂の雰囲気が残るカフェで楽しむオーガニックコーヒーが、一段とおいしいはずである。
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