大学として現代を生きる公爵邸
品川区東五反田にある清泉女子大学のキャンパスは、旧島津公爵邸である。島津家は代々南九州を治めてきた家柄で江戸時代は薩摩藩主として幕府との深い関わりも持っていたが、幕末には討幕の中心的役割を演じ、明治維新を経て公爵の位を得るに至った。公爵は華族制度の5つの位の中で最高位である。その島津家によって大正4年(1915)に建てられた美しい佇まいの洋館が今も残り、大学の本館として使われている。2012年に東京都指定有形文化財となったこの建物が、毎年春と秋に一般公開されていると聞き、4月の公開日に訪ねてみた。
洋館を設計したのは、明治政府が招聘したイギリス人建築技師、ジョサイア・コンドル。鹿鳴館や旧岩崎久彌邸、綱町三井倶楽部など数々の作品を手がける一方、工部大学校(東京大学工学部の前身)の教授として、東京駅を設計した辰野金吾をはじめ多くの日本人建築家を育てた人物といえば、古典的なデザインを取り入れた凝った造りもうなずける。私邸とはいえ公爵邸である。高貴な客をもてなす迎賓施設としても重要な役割を果たしていたであろう当時の面影がしのばれる。直線的で堂々とした正面玄関とテラスがやわらかなカーブを描く庭園側の優美な表情(写真中2点)、同じ建物とは思えないそのギャップも新鮮だ。
あいにく庭園の桜は散り、一面に植えられたキリシマツツジが見頃を迎えるまでには早過ぎる時期だったが、今年2015年は旧島津公爵邸竣工100年の記念の年ということでフォトコンテストも開催されており、熱心にカメラを構える見学者の姿が目立った。この日は平日のため歴史的建物の中に設けられた教室でも講義が行われており、大学祭などでは見られない、普段の大学の風景を目にすることができたのも楽しい経験だった。
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