偉容を競う三田の建築物
メトロ南北線麻布十番駅2番出口を出て、日向坂を登る。この三田1丁目・2丁目あたりはあまり商業開発が進んでおらず、2013年の今も、静かで落ち着いた佇まいが残っている。その中に、歴史を刻んだ建物が存在感を示す一画がある。まず目を引くのは、鹿鳴館や三菱一号館などを設計したジョサイア・コンドルの手で大正2年(1913)に建てられた「綱町三井倶楽部」。かつては三井財閥の迎賓館、現在は三井グループ企業の会員制クラブとして使われており、名称は旧町名を引き継いでいる。一般には非公開だが、優美なデザインの門から宮殿のような洋館を鑑賞することができる(写真左)。この建物があるのは敷地のほんの一部で、近くにある慶應義塾大学三田キャンパスにも匹敵する広大な庭園が背後に広がっている。
道を隔てて、真向いにある建物がまた威風堂々としている。こちらは関東大震災からの復興で建築ラッシュとなった昭和初期の官庁建築の1つ。昭和4年(1929)、旧逓信省簡易保険局として建てられ、現在はかんぽ生命東京サービスセンターのオフィスとして使われている(写真中)。オーストリアの建築家、オットー・ワグナーによるウイーン郵便貯金局を参考に、当時の最新デザインを取り入れたといわれ、旧逓信省のプライドが感じられて心を動かされる。
そのまま道沿いに歩いて桜田通り(国道1号線)に抜ける。左に折れると東京タワー・芝公園方面だが、右に折れてJR田町駅方面に向うと、間もなく慶応義塾大学の東館に至る。キャンパス内にある図書館旧館(1912年竣工)に似せた赤レンガ風のレトロなつくりだが、こちらは2000年竣工の新しい建物(写真右)。良い試みとは思うが周囲の街並との相性が今一つ。少しばかり感動が薄れてしまうのであった。
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