明治丸、再び美しく
JR京葉線越中島駅すぐそばの晴海運河沿いに、東京海洋大学越中島キャンパス(旧東京商船大学)がある。緑ゆたかな樹木の間に、登録有形文化財に指定された明治時代の天文観測台や昭和初期に竣工した一号館などの建物が佇み、歴史と伝統を感じさせる空間となっている(写真上)。
だが、最もこのキャンパスにふさわしい歴史的遺産といえば「明治丸」(写真中)であろう。明治政府がイギリスの造船所に発注した鉄船で、明治7年(1874)に竣工した。もともとは灯台の巡回業務用として建造されたものだが、当時としては造りも豪華で性能も抜きん出ていたため、皇族や政府の高官がたびたび乗船し、さまざまな近代化の歴史の舞台で活躍したという。特に明治9年に明治天皇が東北・北海道行幸の際に乗船したことは歴史に刻まれ、横浜に帰港した7月20日は「海の記念日」となり現在の国民の祝日「海の日」のもとになっている。現役を引退すると明治29年(1896)に商船学校(現在の東京海洋大学)に譲渡されて係留練習船となり、戦後は米軍に接収された時期もあったが、昭和38~39年に陸上保存され、昭和53年、船舶として初めて国の重要文化財に指定された。
その後修理が繰り返されたが、2013年から行われた修復工事は過去にない大規模なもので、2015年3月に竣工、10月から一般公開も始まった(曜日限定公開)。ただし明治31年に練習船として改修を終えた当時の形をベースに復元されており、マストは建造当時の2本ではなく3本、内部もかつて存在した多くの客室はなく訓練用の広い空間ができている。それでも明治天皇が使った御座所(写真下右)や、当初は政府高官や一部の上級乗務員しか使えなかったであろう客室とサロン(下左)はよく復元され、船首や船尾の優美なデザインとともに船の格式の高さを伝えている。
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