北の丸の赤レンガの館
皇居の北側に位置する「北の丸公園」の南西部、桜の名所・千鳥ヶ淵のすぐそばに、歴史を感じさせる風格ある建物が建っている。我が国の近代美術の中でも、特に工芸作品を収集し、展示紹介している東京国立近代美術館工芸館である。建物は明治43年(1910)竣工の貴重な洋風赤レンガ建築で、旧近衛師団司令部庁舎として重要文化財に指定されている。慶応義塾大学図書館旧館(明治45・1912年築)、東京駅(大正3・1914年築)などの赤レンガ建築と同時期の建物である。
かつて江戸城の北の丸だった「北の丸公園」は明治以降、近衛師団の兵営地として使われていた。近衛師団は大日本帝国陸軍の師団の1つで、天皇と皇居を守護する役割を持ち、戦時は前線にも投入された部隊。戦後、軍の解体を経て、この地は公園として整備されることになり、ほとんどの施設が撤去されたが、運よく旧近衛師団司令部庁舎だけは撤去を免れ、昭和47年(1972)に重要文化財に指定、昭和52年(1977)に東京国立近代美術館工芸館として公開されたという経緯だ。
さて、この旧近衛師団司令部庁舎、たしかに外観は目を見張るが、エントランスに立つと、内部の造りは意外に質素な印象を受ける。軍関連の建物ということで、質実剛健、実用本位、余分な装飾は不要という考え方なのだろうか、などと思いを巡らす。しかし、立ち入れるのはごく限られた範囲。しかもそこはすっかり美術館の展示スペースになっていて、往時の建物の面影をしのぶのは難しい。こうした建物に出会った時は、建物自体に刻み込まれた歴史に触れるのを楽しみにする人も多いはず。願わくば、館内の主な部屋だけでも、昔の姿を復元して見せてほしいものである。
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