晴海埠頭の非日常
名前は知っていても、実際に「晴海埠頭」を訪れたことのある人は案外少ないかもしれない。東京港が開港50周年を迎えた平成3年(1991)にちょっとカッコいい客船ターミナルが完成し、外国の大型客船も入港できるようになっている。最上部には東京湾を360度見渡せる展望台もある。ただ、そうたびたび船が入港するわけではなく、普段は閑散としていて、ちょっとこの施設、もったいないんじゃないのという感じだ。
以前に来た時は、たまたまコスプレイヤーのイベント開催日で、アニメやゲームの主人公になりきった大勢の若者たちが送迎デッキを占領し、特に大騒ぎをするわけでもなく、静かに写真を撮り合うなどして自分たちの世界を楽しんでいた。建物のデザインがSF的で人が少なく目障りな看板なども少ないのが魅力なのか、しばしば催されているようである。
それからしばらくして、この日はイタリアの豪華客船「コスタ・クラシカ号」が入港しているというので立ち寄ってみた。う〜ん、さすがにでかい。内部の様子をうかがうことはできないが、外観を眺めるだけでも気持ちが大きくなる感じだ。聞いたところでは、今回は上海を起点とした8日間程度のクルーズらしい。前日朝に長崎から入港し、本日14時にはもう神戸に向けて出港だ。乗客はこの1日の間に箱根などへのバス旅行や都内での買物を楽しむそうで、なかなか忙しい。
いよいよ出港の時間が迫る。送迎デッキで見送る人の数は少なく、いささかさびしい感はあるが、日本大学吹奏楽部による演奏が始まると、船のデッキに次々と乗客が姿を見せる。歓送のセレモニーだ。何の縁もゆかりもない人たちを見送るのだが、「ボンボヤージュ」の言葉がつい口をつき、手を振ってしまうのはなぜだろう。地面に響くような低く大きな汽笛とともに、白い巨体がゆっくりと岸壁を離れる。やはり船は、水上を進む姿のほうが絵になる。レインボーブリッジの方向に船体をなめらかに反転させる動きは、その優雅なフォルムを誇示するかのようであった。
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