失われた賑わい
秋葉原近くのクライアント企業に立ち寄った折、次のアポイントまで少し時間があったので、万世橋まで歩いてみた。
万世橋というと、グルメ派の方なら、近くにある「肉の万世」本店をイメージするかもしれない。肉の万世は1949年(昭和24)に電気部品商が商売替えをして始めた店で、その名は万世橋にちなんでいる。
一方、鉄道ファンの方なら、2006年5月に閉館した交通博物館、さらには、かつてそこにあった2つの駅のことを思い浮かべるに違いない。
旧国鉄万世橋駅は、交通博物館のあったところに、1912年(明治45)から1943年(昭和18)まで存在した。中央本線が1919年(大正8)に東京駅とつながるまでは、この万世橋駅が終着駅であり、1923年(大正12)の関東大震災で焼失するまで、赤れんがの立派な駅舎が建っていた。
また地下鉄の万世橋駅は、神田川をはさんで国鉄の駅とは反対側(秋葉原電気街寄り)にあった。1927年(昭和2)、浅草-上野間に日本初の地下鉄を開通させた東京地下鉄道が新橋までの延伸を計画したが、途中神田川を越えるのが難工事となり、万世橋までの暫定開業の仮駅として、1930年(昭和5)1月から翌年11月までの約2年間だけ存在した駅であった。当時は近くに路面電車の主要駅もあり、このあたりは交通の要衝として大いに賑わったそうだ。
そのような目で見ると、普段何気なく見過ごしてしまう万世橋と神田川沿いの赤れんがの風景が、ロマンに満ちた世界に見えてくる。ある大学の建築科の先生が、歴史的遺産を生かした新しい水辺の空間づくりに適した場所の1つ、といった話をしていたが、さて、これからどのように変貌していくのだろうか。
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