東京のパナマ運河?
東京の川には水門が結構たくさんあって、海や川の水位の上昇から陸地を守っている。その中でも独特の機構をもっているものに閘門(こうもん)がある。ロックゲートともいう。前扉と後扉の間に設けられた閘室というスペースの水位を給排水により上下させることで、異なる水域間の船の通行を可能にする。つまり、閘室の水位を、通行しようとする船のいる水域と同じにして扉を開け、一度船を入れてから扉をふさぐ。そして今度は進行方向の水域と同じ水位にしてから扉を開け、送り出す仕組みだ。世界的にはパナマ運河が有名で、それとは比べものにならない規模だが、江東区の扇橋閘門が夏休みに一般公開していると聞き、2016年8月某日、見学に行ってきた。メトロ住吉駅から歩いて10分ほどの場所である。
閘門が設けられた小名木川(おなぎがわ)は、もともとは徳川家康が千葉の市川方面からの水運を確保するために掘らせた運河で、明治以降も物資の輸送に活躍したが、やがて工業化による地下水くみ上げ等の影響で周辺の地盤が沈下、水害が深刻になったことから、堅固な堤防を築いて治水を行うことになった。その際、水運を維持するために設けられたのが扇橋閘門で、昭和52年(1977)の竣工である。今日では物資輸送の需要はなくなり、小さなレジャー船や清掃作業船などが通行する程度だが、東京都の職員が毎日常駐して、船が通るたびに操作室(写真上中央)から扉の開閉作業をコントロールしている。幅11m・長さ110mの閘室は、約2分で給排水を行い、およそ2.5mある隅田川と小名木川の水位差(写真上右)を克服する。この日は、東京スカイツリーの船着場を出発し扇橋閘門をくぐってまた戻るという小さな観光船に遭遇(写真下)。日本橋船着場から隅田川経由で入ってくるクルーズもあるそうだ。水害防止や大災害時の水上輸送の確保が今日の第一の使命であるが、どうやら新たな東京の観光ビジネスの一翼も担っているようである。
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