公園はミステリー・ゾーン
メトロ銀座線青山1丁目駅から青山通りを赤坂見附方面へ5分ほど歩くと、カナダ大使館の隣に公園がある。高橋是清翁記念公園という。入口近くに児童遊具も見えるが、少し入ると立派な日本庭園が広がり、最も奥まった所に高橋是清翁の像(写真上左)が鎮座している。
日本庭園と書いたが、何やら異国の怪しい雰囲気を漂わせているのがこの庭の特徴だ。その一番の要因は、園内に6体点在する石像であろう(写真上右)。朝鮮王朝(李王朝)時代の王族の墓に似たような石像があるらしいが、果たしてこれが彼の地のものか、それを模して日本で作られたものなのか、これだけインパクトのある像なのに何の説明もないのがさらに怪しさを増幅させる。周りにある石柱や石灯籠のデザインも、どこか日本風でない印象だ。よくよく見て回ると、「かつてここに李王朝9代皇帝の側室(1515年没)の墓碑があり、平成12年(2000年)に李王朝一族関係者に譲り渡した」旨の案内板が立っている。ますます怪しい。日が暮れた後は、ちょっと立ち寄るのは遠慮したいミステリー・ゾーンである。
ところで、高橋是清は大正から昭和にかけ、内閣総理大臣・大蔵大臣を歴任した人物。NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」では西田敏行が演じており、主人公の正岡子規や秋山真之にとっては恩師、日露戦争では日銀副総裁として戦費調達に力を尽くしたことでも知られる。
この公園はかつて高橋是清邸があったところで、昭和11年(1936)2月26日、政府と軍上層部に不満をもつ青年将校らによるクーデター、いわゆる「2・26事件」で大蔵大臣在任中に殺害された、まさにその「現場」である。没後、家屋敷は東京市に寄贈され、昭和16年(1941)に公園となったが、往時は隣のカナダ大使館を含めた広大なものであったらしい。なお高橋邸の一部は小金井市にある都立小金井公園の「江戸東京たてもの園」に保存され、一般に公開されている(写真右下)。
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