時を閉じ込めたオフィスビル
都心のオフィス街を往くと、歴史を感じさせる建物が新しい超高層ビルを背負ったように見える風景をよく目にするようになった。たとえば霞が関では旧文部省、丸の内では旧東京中央郵便局や明治生命館があげられる。こうした古い建物はいずれも再開発の際に解体を惜しまれた名建築で、一般に外観の一部だけ残すようなプランが多いが、この3つの中では、国の重要文化財に指定されている明治生命館が建設当時の姿をそのままとどめているのが注目される。2004年に隣地に竣工した30階建ての明治安田生命ビルと融合し、「丸の内MY PLAZA」として一体運用されていて、新旧2つのビルをつなぐ広い吹き抜けのアトリウム(写真中)は、過去と現在が隣り合わせに同居する不思議な空間となっている。
さて、明治生命館が竣工したのは今から80年前の昭和9年(1934)のこと。この辺りは、丸の内初のオフィスビル三菱一号館、同二号館の建設(1894~95年、明治27~28年)を機に、一時はロンドンの街並みにたとえ、一丁倫敦(いっちょうろんどん)と称されるほどになったオフィス街で、明治生命館は明治生命本社があった三菱二号館と、その隣地をあわせて建設された大建築だった。冒頭にあげた3つの建物はいずれも昭和の初め、関東大震災からの復興途上の同時期に建設されたものだが、それぞれデザインが大きく異なり、個性を競っているのが興味深い。特にこの明治生命館は古典主義様式と言われ、古代ギリシャ・ローマの建築を思わせる大きな列柱を配した外観が圧巻だ(写真上)。
2014年現在も、明治生命館は明治安田生命保険の本社として使われているが、一部のスペースは誰でも休憩などに立ち寄れるラウンジとして開放され、気軽に重要文化財の空気を楽しめる。さらに業務のない土曜、日曜については建物のコア部分も一般公開され、大理石をふんだんに使った吹き抜けの大空間、内装や照明器具の凝った装飾など、まるで宮殿のようなイメージの贅沢な空間(写真下)を堪能できる。丸の内探訪の魅力あるスポットの1つである。
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