日比谷公会堂80周年
日比谷公園の南端に立派な時計塔を備えた風格のある建物が建っている。市政会館・日比谷公会堂である。政府の要職を歴任して日本の植民地経営を支え、国内の鉄道整備に貢献し、関東大震災後は東京の復興計画を立案したことでも知られる後藤新平が、東京市長時代に安田財閥の寄付を仰いで建設したものだが、竣工したのは昭和4年(1929)、後藤の急逝後間もなくのことだった。本格的なコンサートホールを備えた我が国初の施設であり、会館自体は後藤が設立した東京市政調査会が使用、公会堂の管理は東京市に委ねられ今日まで歴史を刻んでいる。
今年2009年はそれから80周年ということで、10月18日には「日比谷公会堂開設80周年」の記念式典が行われ、翌19日から、普段は使われなくなっていた1階ホールが「アーカイブカフェ」としてオープンしている。数は少ないが古い上演資料や写真・広告媒体などが展示されており、その中で、開館当時の味を再現したコーヒー(280円)や、和洋折衷のもっちりデザート(580円)を楽しむことができる。しばらく倉庫のようになっていて、あまり手を入れないまま公開されたらしく、決して美しいとはいえないが、昭和初期にタイムスリップした感覚を味わうには十分だ。無造作に置かれた備品や壊れかけた昔のチケット売場の跡などが妙に生々しく、古い遺跡を発見したようなワクワク感を覚える。
このカフェ、1年間の期間限定である。現在も市政会館側では外壁工事が行われているが、公会堂部分も耐震工事などが予定されている。その後この1階ホールを、建物の雰囲気を生かしたレトロ調のレストランにする計画もあるようだ。「古い遺跡」のリアル感を味わうなら今のうちかもしれない。
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