築地市場に向かう小道
汐留の電通ビルの海岸通りをはさんだ向かいから、朝日新聞社の裏を通り、築地市場青果門の前に出る、400メートルほどの小道がある。写真で見る通り、何の変哲もない一方通行の道であるが、ここはある意味、歴史的な小道なのだ。
この道の延長上、築地市場内に、国鉄貨物線の「東京市場駅」があった。1935年の築地市場開場と同時に営業開始、汐留駅からの単線レールを、鮮魚や青果を積んだ貨物列車が、最盛時には1日150輌も走ったという。しかし築地周辺、そして日本全体の道路網が整備され、トラックが普及する1960年代には次第に需要がなくなり、1984年に廃止される。汐留駅も1986年に廃止され、「汐留シオサイト」として再開発される。その汐留から築地までの、鉄道の線路が走っていた部分を、道路として舗装したのがこの道なのだ。
道の入口に、鉄道が走っていた時代のモニュメントが残っている。踏切信号である。都民の台所を支えてきた鉄道の記憶が忘れられないよう、市場関係者や近隣の有志によって永久保存となったという。そして単線の鉄道が走っていたという過去は、モニュメント以外にも、道路のルートや道幅、市場の建物の形など、様々な部分に痕跡を残している。道1本にもそれぞれの歴史があるのだ。
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