雛祭りの美術館
2012年3月、話題の東京スカイツリーが竣工したが、この事業を中核となって推進してきたのは東武鉄道(株)である。そして東武鉄道といえば、数多くの鉄道会社の経営に関わり「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎が初代社長を務めている。根津は実業家であるとともに東洋の古美術の蒐集家としても知られ、死の翌年(昭和16=1941年)、そのコレクションが遺志により自宅のあった南青山の地で一般に公開されることとなった。それが根津美術館である。今回は東京スカイツリーのことは脇に置き、3月3日の雛祭りの日、東武つながりの根津美術館を訪ねてみた(写真左上)。ちょうど赤坂に本店のある和菓子の老舗「虎屋」が所有する江戸・明治時代のお雛様と雛道具を公開する特別展が開催されていて、よい機会だと思ったからである。
ホールに入ると、西方系の顔立ちが印象的な、ガンダーラの弥勒菩薩像に出会えるのがまずうれしい。展示室のお雛様は雛壇飾りではなく、人形や雛道具を分類ごとにばらして展示されていた。幕府の倹約令のもとで雛飾りも規模の縮小が求められ、それにより発展したとされる極小雛道具は、職人が技術を尽くし、当時の実際の道具を極限まで小さく再現した見事なもので、現代人も好むミニチュアの世界の原点を見る思いであった。
そうした館内展示とともに、広い日本庭園の散策もこの美術館の楽しみだ。根津の趣味を反映するかのように、日本や東アジアの仏像や石像、石柱などがそこここに配置され、ところどころに点在する茶室が庭園の風景にとけ込む。茶室の庭先では、稲藁で作られた不思議なオブジェを発見(写真下右)。「稲叢(いなむら)ぼっち」といって松と梅を意味し、冬枯れの茶庭の寂しさを紛らす工夫であるとのこと。ちょっと素敵。
それにしても、この日は土曜日の雛祭りということもあってか、入館者が予想以上に多かった。虎屋の特設売店も大繁盛で、私も雰囲気にのまれ、うかつにも雛祭りデザインの小羊羹「ひいな」を衝動買いしてしまったのであった(写真下左)。
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