紀尾井町に建つ哀悼碑
地下鉄赤坂見附駅を出て、弁慶橋を渡り、右にグランドプリンスホテル赤坂を見ながら歩いていくと、間もなく千代田区立の清水谷公園に至る。
このあたり、赤坂プリンスがあるから港区赤坂と勘違いしそうだが、千代田区紀尾井町である。江戸時代に紀伊徳川家、尾張徳川家、井伊家の屋敷があった場所で、明治5年、それぞれの頭文字をとって町名が決められた。公園のある場所は、ちょうど紀伊家と井伊家の屋敷境にあたり、谷のようになって清水が湧き出ていたことから、清水谷と呼ばれていたそうだ。公園の名は、これにちなんでいる。
一見しただけでは、どうということもない公園だが、中央に大久保利通の哀悼碑がある。高さが6メートルもある立派な碑だ(写真中)。「大久保利通って誰?」と思う方も多いと思う(実は私も…)。高視聴率を稼いだNHK大河ドラマ「篤姫」にも登場したが、同じ薩摩出身の西郷隆盛とは最初は盟友、後の西南戦争では敵同士になった。負けた西郷のほうが世間での人気がぐんと高いのがいかにも日本的だが、大久保は明治政府誕生に大きな役割を果たし、自らが内務卿(今でいう内閣総理大臣)として権力の中枢に上った人物である。ただ、その強権と専制ぶりに不満を持つ者も多く、明治11年(1878)、霞ヶ関の自宅から赤坂の仮御所に向かう途中に暗殺されてしまった(紀尾井坂の変)。哀悼碑は、ここがその政変の現場であったことを今に伝えている。
そうした歴史はさておいても、ホテルニューオータニの白いタワーを間近に望む緑多い公園は、都心の心地よい風景の1つである。
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