神谷町のお稲荷さん
地下鉄神谷町駅の近く、桜田通りから少し入った虎ノ門4丁目の道沿いに葺城(ふきしろ)稲荷という神社がある。かつてこの辺りを葺手町、城山町と呼んでいたことに由来する命名と思われる。同社の由来書によれば、江戸の元禄時代(1691年)今の内幸町近辺に暮らしていた屋根葺き職人たちが江戸城拡張工事で立ち退きに遭い、当地に移り住んだ。その時に古い社を発見し、氏神として奉ったものだとか。霊験あらたかで、関東大震災でも東京大空襲でも被害を受けず、氏子の葦手町、城山町も災厄を免れたそうである。
この神社は道路脇の崖の上にあるため、注意していないと見逃してしまうかも知れないが、小さな急勾配の石段を見上げた先に、稲荷神社ならではの赤い鳥居がある(写真上左)。上り切って見下ろす下界では、人々が忙しく行き交っている。境内は不思議な小宇宙。お決まりの狐は見当たらず、砲弾のようなオブジェが異彩を放つ(写真下右)。それにしても奉納された狛犬や石仏の風化が進み、社の傷みのひどいのも気になる。引き戸を自由に開けて参拝してよいとあるが、建て付けが悪く、壊してしまうのではないかと難儀する。中に閉じ込められていたのは、ちょっと怪しげな世界であった(写真下左)。
神社の隣地には、かつて虎ノ門パストラルというホテルがあったが、2012年6月現在、すっかり取り壊されて、影も形も無くなっている。そう遠くない時期に、大規模な建築工事が始まるようである。完成の暁には、ぜひ事業の中核を担う森トラスト様の援助のもとにお稲荷様も化粧直しをし、少しきれいになって街の発展を見守り続けてもらいたいものである。
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