最初の公使館が開かれた地
2008年のNHK「篤姫」、2009年のTBS「JIN」、そして2010年のNHK「龍馬伝」と人気ドラマが続き、幕末への関心が高まっているらしい。幕末を語る代表的なキーワードといえば、「開国」であろう。地下鉄南北線麻布十番駅から商店街を抜けたところにある「善福寺」は、その「開国」に関わりの深い場所の1つである。参道に立つと門の背後に「元麻布ヒルズ」がドーンとそびえていて、何とも異様なたたたずまいだが(写真左)、そもそも都内では浅草寺に次ぐ古い歴史を持ち、天長元年(824)に弘法大師・空海によって開山されたという由緒ある寺だ。その後、鎌倉時代に親鸞が訪ねたことがきっかけで真言宗から浄土真宗に改宗、江戸時代には徳川幕府に手厚く保護され、大きな力を持っていたそうである。
それが幕末になると、激動の歴史の舞台となる。安政5年(1858)、大老井伊直弼により日米修好通商条約が締結され、日本は長い鎖国の時代を終え開国に至る。これに伴い、翌安政6年、タウンゼント・ハリスが初代アメリカ合衆国公使として来日し、最初の公使館を開設した。その場所というのが、この善福寺本堂の北側であった。その後、攘夷派による襲撃や通訳のヘンリー・ヒュースケン殺害などの不幸な出来事が続いたものの、公使館は明治8年(1875)まで存続した(明石町にあった外国人居留地に移転)。港区は東京23区の中で最も大使館の多い区だが、どうもその伝統は幕末から続いているようである。境内には、ハリスのレリーフを刻んだ初代アメリカ公使館跡の碑が建てられている(写真中)。
善福寺にはもう1つ、江戸時代からの名物がある。枝が地に向かって伸びているように見える「逆さイチョウ」である。親鸞が植えたとも伝えられる樹齢700年を超える老木で国の天然記念物となっている。石碑によると、最初のアメリカ公使館は1859年7月7日設立とある。今から151年前のことだが、きっとその当日も、逆さイチョウは写真のように豊かな緑をたたえ、新たな歴史の1ページを見守っていたに違いない。
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