菖蒲に勝負を祈願して
5月は例年ならあちこちの寺社の祭りで賑やかなのだが、今年2011年は東日本大震災の影響で縮小や中止が相次ぎ、かの神田祭や三社祭も神輿の渡御などが中止となって、まことに寂しい月となってしまった。
そうした中、地下鉄白金高輪駅から5分ほどの港区白金台にある覚林寺では、5月4日、5日に、例年どおりの祭が開催された。ここは豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、加藤清正が連れ帰って養育したとされる朝鮮王家出身の僧、日延が1631年に創建した日蓮宗の寺で、清正を祀っている。清正は秀吉の家臣として数々の戦功をあげ「虎退治」の伝説でも知られる勇猛果敢な武将で、その武運にあやかり、勝負祈願の寺として信仰を集めている。寺そのものが敬意と親しみをこめて「清正公」(せいしょうこう)と呼ばれるほどで、この5月の祭は「清正公大祭」として親しまれているのだ。
祭りの名物は、「勝守」という菖蒲の葉の入ったお守りと「開運出世祝鯉」と名付けられた鯉のぼりで、子供の成長を願う親子連れが次々に手にしていく。こうしてみると、5月5日「端午の節句」の別名である「菖蒲の節句」(勝負、尚武=武をとうとぶ=に通ずる)と清正信仰がうまく融合され、武運のみならず商才もなかなかのもの。寺の周りにはおなじみの露店がびっしりと並び、古典的なお祭り風景である。これを伝統文化というのかもしれないが、街並みが近代化し、生活が豊かになり、ファッションが大きく変化しても、昔からほとんど変わらない祭りの楽しみ方がすごく不思議で面白いのだ。
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