築地の酉の市
11月の風物詩といえば「酉の市」だろうか。「開運招福、商売繁盛」の縁起ものの熊手を目にすると、もう今年もわずかという気分になる。
酉の市は、江戸時代以降、関東中心に盛んになった鷲(おおとり)神社の祭礼だ。日本武尊(やまとたけるのみこと)が戦勝のお参りをしたのが11月の酉の日であったことにちなみ、その時携えていた武具が熊手の由来だそうである。暦の関係で、二の酉までの年と、三の酉まである年がある。
その酉の市、浅草の鷲神社のものが有名だが、築地市場近くの「波除稲荷神社」でも市が立つ。波除稲荷神社の起源は江戸時代、ちょうど築地の埋め立て工事が行われていた1600年代の半ば頃とされる。たびたび堤防が波に崩されて難工事が続いていたある日、海中に漂う稲荷神の像を見つけ、これを祀ったところ、風も波もおさまり工事が順調に進んだというのである。以来、「災難を除き、波を乗り切る」波除稲荷様として信仰されている。
祀られているのは「倉稲魂命」(うがのみたまのみこと)で、日本武尊と天日鷲命(あめのひわしのみこと)を祀る鷲神社とは違う。ただ境内に末社として小さな神社があり、そこに天日鷲命が祀られているので、これが波除稲荷の酉の市の根拠なのかもしれないと勝手に想像する。
二の酉の日に立ち寄ってみた。小規模ではあるが様々な意匠の熊手が売られ、社務所では開運・商売繁盛の熊手型のお札「かっこめ」が授与されていた。「かっこめ」(はっこめ)とは、福を掻きこむ、掃きこむという意味だ。実は、こういう縁起ものが少々苦手である。求めた時は気分がよいが、持ち帰った後は粗末にもできず扱いに困るのだ。今回も参拝をし、雰囲気を楽しんだだけで帰途につくことにした。
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